コラム
2025.12.26 <スペシャルインタビュー> 緑黄色社会から高校生のきみたちへ -前編-
メンバー全員の高い演奏力と、ボーカル・長屋晴子の伸びやかでエネルギッシュな歌声が聴く人の心を揺さぶる4人組バンド「緑黄色社会」。彼らが高校時代、軽音楽部に在籍していたことはあまりにも有名な話だ。10代限定のロックフェス「閃光ライオット2013」で準グランプリを獲得したことをきっかけに注目を集め、2018年にメジャーデビュー。「Mela!」「サマータイムシンデレラ」「花になって」などの代表曲を次々にリリースし、夢への階段を一気に駆け上がってきた彼女たちに、これまでのバンド活動と、軽音楽に情熱を注ぐ高校生たちへのメッセージを聞いた。(敬称略)
必然か偶然か それぞれの出会いと結成までの経緯
幼いころから歌が大好きでピアノも習っていた長屋は、中学時代は吹奏楽部に所属していたが、「大塚愛」をきっかけにシンガーソングライターという職業を知り、「いきものがかり」に触れたことでバンドという形を知った。その後いつしか、「高校ではバンドを組んでギターボーカルしてみたい」という思いを抱いたという。
高校進学に向けて志望校の選定を進めるなかで、「心機一転、今までの自分を変えてみたいと思い、なるべく知っている人が少ない学校に行きたいと考えていました。そのなかでも、軽音楽の部活動がある高校に行きたかったので、自らいろいろな学校を調べて、最終的に中京大中京高に入学することになりました」と話す。
入学が決まった後、当時流行していた交流型SNSで、二人の人物とつながったという。「プロフィール欄に『中京大中京高に進学予定』と書いてあるのだけど、アイコンはBUMP OF CHICKENさんの画像で、アカウント名もBUMPさんの楽曲名だった。怪しさ満点のアカウントでしたが(笑)、やり取りした時のメッセージやテンションに感じるものがあり、気が合うなと思っていました」。そのアカウントの正体が、小林壱誓だった。
もう一人が、プリクラをアイコンに設定していたpeppeだ。長屋は、プリクラを頼りに入学式でその姿を見つけ、さっそく声をかけたという。長屋は「自分で望んだ環境とはいえ、周りに友達が全くいない状況だったので、自分から積極的に声をかけないと友達もできないし、バンドメンバーも見つからないと思った」。

ある日の帰り道、peppeが長くピアノを習っていることを知った。部活動はどうするつもりなのかを尋ねたところ、「チアリーディングかダンスか吹奏楽かなぁ」とふんわりとした回答だった。当初はキーボードを入れる構想はなかったが、「だったら一緒に『バン研(バンド研究会)』やろうよ」とダメ元で声をかけた。すると、その場のノリで「いいよ」と。「今振り返ると、だいぶ適当だよね(笑)」と話す長屋に、「確かに」とpeppeも同意。ちなみに小林とは、入学式では会っていないという。「入学前から『仮押さえ』してあったので、特にこの日に会わなくてもいいかな」と思っていたそうだ。
長屋、小林、peppeに当時のベースが加わり、バンドが結成された。ただ、当時のバン研は、彼らの学年だけでも60人近くが在籍しており、部室は週に1回30分も使えない状態だったという。なかなかうまく練習の機会を作れず、そのうちベースが抜けることとなった。後任を探そうとなり、小林が「俺がいいベースを連れてくる」と勝手に連れてきたのが2歳年下の幼馴染・穴見真吾だ。
「当時中3だった僕からしたら、高2の女子二人はめっちゃ怖かったですよ(笑)。最初は、兄と一緒に見学に行ったのですが、みんな俺の事どう思っているんだろうって、そればかり気にしていました」と語る穴見。それでも、「僕は長屋の歌声に感動していたので、バンドに入ることに迷いはなかったですね。この声と一緒に音を出したいなって思っていた」と振り返る。
加入が決まったものの、年齢差もあって初めはぎこちなかった。「がんばって話しかけてみても真吾から返事は返ってこないし、peppeも男兄弟がいなくて年下男子にどう接していいか分からず、二人の間での会話は成り立たない感じだった」と長屋。ただ、一生懸命ベースを弾いてくれる姿、音で魅せようという意気込みに、「中3なのにうまい」と感じていたという。「とにかくいい音を出すことでしか、そこにいられないと思っていたんですよ」と穴見は懐かしそうに話した。
夢の舞台へ オリジナル曲の制作を開始
彼女たちのバンド活動は、東京事変などの楽曲をコピーすることから始まり、高2の頃からオリジナル楽曲の制作に着手したという。きっかけは、高1の夏に見た「閃光ライオット」。「同じ高校の先輩が決勝進出の9組に残ったので、当時のメンバーで見にいった。先輩たちの姿を見て自分も出たいと思い、そのためには『オリジナル曲で勝負しないと』と思うようになった」と長屋は語る。

小林も「作曲の勉強をしていたわけではなかったので、正直なところコードすらよく知らない状態で。スタジオでひたすら楽器を弾いて、そのとき鳴った音を耳で聞いてね」と話し、穴見も「当時は、音を鳴らせばわかるでしょと思っていて、感覚だけを頼りに曲だと思えるものを作っていた」という。技術や知識はなかったものの、もっぱら長屋と小林が楽曲の種となるメロディーを持ってきて、練習の場で「せーの!」で音を出しながら、ホワイトボードに思いついた歌詞を書き出す。そんな作業を繰り返したという。
彼女たちが注目を浴びたのが、長屋、小林、peppeが高3、穴見が高1の時に出場した「閃光ライオット2013」。決勝9組の中から、準グランプリの栄冠に輝いた。日比谷野外大音楽堂でのステージは、長屋にとって「大勢の人の前で歌うことができて、歌手になりたいという小さい頃からの夢が、具体的に現実味を帯びてきたかのような感覚があった。頑張れば手が届くように思えた体験だった」と振り返る印象的な出来事となった。

小林は、「音楽を仕事にという思いは中2のころからあったけど、自分はずっとここでやっていきたいという感覚を得た」と話す一方で、「音楽の道で生きていくという決断は、一般論で言えばなかなか親の理解を得るのが難しいんでしょうけど、音楽をやめようと思ったことは一切なかったですね。高校生ながらに何か根拠があったんでしょう。それに、僕たちには『好きなことをやりな』と言ってくれる寛容な親たちがいてくれた。両親たちには改めて感謝したいですね」と照れながら語る。「まぁ、親たちも当時から長屋の声を聴いていたわけですから、『この子ならもしかして…』という期待や希望めいたものもあったと思います」
(後編に続く)
緑黄色社会プロフィール:
長屋晴子(Vo./Gt.)、小林壱誓(Gt.)、peppe(Key.)、穴見真吾(Ba.)の4名からなるバンド。愛称は”リョクシャカ”。高校の同級生(長屋晴子・小林壱誓・peppe)と、小林の幼馴染・穴見真吾によって2012年結成。「Mela!」(2020)がストリーミング再生数4億回、「花になって」(2023)が同2億回、「Shout Baby」(2020)・「キャラクター」(2022)・「サマータイムシンデレラ」(2023)が同1億回を突破するなど話題曲をコンスタントに発表。2022年に初の日本武道館公演、2023年~2024年にアリーナツアーを開催、2025年には初のアジアツアーを成功させるなど躍進を続けている。長屋晴子の透明かつ力強い歌声と、個性・ルーツの異なるメンバー全員が作曲に携わることにより生まれる楽曲のカラーバリエーション、ポップセンスにより、同世代の支持を多く集める。