コラム

2026.03.19 <音楽ライターのつぶやき> 近年の音楽シーンとエレキギター

高校の軽音楽部が盛り上がっているそうですね。1990年代半ば頃から軽音楽部を創部する学校が徐々に増え、現在は全国約2300校、部員数も推定で10万人に上ります。近所の楽器屋さんや練習スタジオを覗いてみると、確かにいつも学生の皆さんで混み合っていますし、バンド人気が年々高まっていることを肌で感じているところです。

(読売新聞文化部 鶴田裕介)


しかし、ほんの数年前。バンドの根幹で無くてはならない楽器といっても過言ではないエレキギターが冬の時代を迎え、「ギター離れ」と言われた時期があったことをご存じでしょうか。今回は、そんなエレキギターの栄枯盛衰を通じて、バンド人気の現代史について見ていきましょう。

2010年代、日本では男女アイドルグループがチャートをほぼ独占する時代がしばらく続きました。たとえば、2015年のオリコン年間シングルランキングを見ると、1位から4位までが『AKB48』。ビルボードジャパンの年間チャートでも、2~4位はまもなく活動を終了する『嵐』でした。一方でアメリカ音楽界は、ヒップホップが席巻。相対的にバンドの存在感は以前ほどではなくなってきていました。

2018年には、アメリカのギターメーカー『ギブソン・ブランズ』が経営破綻し、ギターの神様と呼ばれていたエリック・クラプトンが「ギターはもう終わったのかもしれない」と発言した、と報じられたこともありました。YouTubeやサブスクリプション(定額制音楽配信)で音楽を聴く人が増え、手早く歌を聴きたがることで、ギターソロを飛ばしてしまう―。そんな傾向も指摘されました。

ところが、コロナ禍に入ってしばらくすると状況が変わってきました。2022年にロックバンドを題材にしたアニメ「ぼっち・ざ・ろっく!」が放送されると、その影響でギターの売り上げが増加。特に、主人公の後藤ひとりが作中で弾いていたレスポールやヤマハのPACIFICAは大人気となって、一部の楽器店では品薄いになったり中古が高騰したりするなど、そんな話もよく聞かれるようになりました。作中のガールズバンドを再現した音楽ユニット「結束バンド」は音楽フェスティバルなどにも出演し、ものすごい声援を集めていました。ガールズバンドといえば、スキャンダル、CHAI、BAND-MAID、SHISHAMO、Hump Back、サバシスター、リーガルリリーなど、枚挙にいとまがありません。「ギターをかき鳴らす女子」のカッコよさが世間にインパクトを与え、漫画やアニメに取り上げられたことが、もしかすると現在の軽音楽部の女子率の高さ(55%)につながっているのかもしれませんね。

話を戻しますが、ギターの売り上げが伸びたことが影響したのか、2023年には、東京・原宿にアメリカのギターメーカー「フェンダー」の旗艦店「FENDER FLAGSHIP TOKYO」が出店しました。地上3階、地下1階という規模に、「ほんの数年前までギター離れと言われていたのに、一体何が起こっているのか」と本気で思ったものでした。当時、ギター専門誌『ギター・マガジン』の編集長に話を聞くと、「コロナ禍でオンラインレッスンが普及し、演奏法を教えるYouTuberも増えた。初心者が気軽に楽器を始めやすい環境ができたのでは」と説明してくれました。確かに、好きなバンドのギターやベースの演奏法を、タブ譜付きで教えてくれるYouTube動画が劇的に増えましたよね。

近年は、3人組バンドのMrs. GREEN APPLE(通称:ミセス)が各種チャートを席巻しているのは皆さんご存じの通り。『ギター・マガジン』2025年8月号の表紙を、ミセスのギタリスト・若井滉斗さんが飾っていたことは記憶に新しいです。King GnuやOfficial髭男dismといった、強力なギタリストがいるバンドの人気は安定したものがありますし、コピーバンド界隈では、椎名林檎さんやVaundyといった〝ギターとベースのバンド風味が強いアーティスト〟が根強い支持を受けているそうです。

というわけで、コロナ禍前の2010年代には想像できなかったほどに、現在はギター人気がV字回復し、ひいてはバンド人気も高まっています。そんな世の中の風潮が、近年の高校の軽音楽部の盛り上がりにもつながっているのかもしれません。

最近、軽音楽部の大会や、ある学校の軽音楽部の練習の様子を見せてもらう機会がありましたが、演奏そのものも作詞・作曲をする能力も、なんと皆さんレベルが高いこと。軽音楽部(バンド)人口が増える→切磋琢磨し合う→全国的なレベルの底上げ→新1年生が憧れて入部してくる→軽音楽部人口が増える、という奇跡のサイクルが生まれているのかな、と勝手に想像しています。もっともっと、盛り上がっていきますように。

<終>


◇鶴田 裕介(つるた・ゆうすけ)

読売新聞文化部記者。ポピュラー音楽を担当。大学卒業後、インディーズでのバンド活動を経て、2005年入社。地方支局や社会部を経て、13年から文化部。25年、自身のバンドの曲を第68回グラミー賞「最優秀ロック・ソング」部門にエントリーし、その過程を紙面で紹介。売れないバンドマンとしての経歴を思いっきり仕事に活用している。