コラム

2025.11.28 「今」ならではの感性を大切に 楽曲制作の極意とは <音楽プロデューサー・割田康彦氏 インタビュー>

たくさんの人の心に響く音楽を作ること、たくさんの人の心を動かす演奏をすることは簡単なことではない。どうしたら、音楽で人を感動させることができるのか。どうしたら、「良い曲だ」と思わせることができるのか。初心者が多い高校軽音楽部生にも分かりやすい音楽作りのコツを、作曲家で音楽プロデューサーの割田康彦さんに聞いた。

SMAPをはじめとした有名アーティストへの楽曲提供、ピアニスト・清塚信也らのプロデュース、お笑いコンビ「シソンヌ」の舞台音楽を手がけるなど幅広く活動を展開し、「一発で記憶に残る曲を作る! 『9つのルール』」(ヤマハミュージックメディア刊)などの著書もある割田さんは、「高校生バンドの音楽は、最初から最後まで盛り込み過ぎであることが多い。引き算することが大切です」と話す。

インタビューに応じる割田康彦氏

「軽音楽部に入る高校生たちは、楽器を演奏するのもオリジナル曲を作るのも初めて、という子がとても多い。そんな子たちが陥りやすいのが、『詰め込み過ぎ』です」と割田さんは語り始めた。「たとえば、料理も同じですよね。慣れない人ほど調味料を多用して、こだわった割にはなんだかぼんやりした味になってしまう。いかにそぎ落として食材本来の味を引き立てるのか、が一番のカギ。いわば『引き算の美学』ですね。たいていの初心者バンドでは、メンバー全員が勝手に、好きなように演奏しています。ほかのメンバーの演奏など気にせずに、自分が気持ち良いフレーズを奏でて大音量でやっている。常に演奏を盛り上げていないと不安になってしまうということもあるかもしれませんが、それでは、お互いの存在がぶつかり合っているだけで、ただうるさいだけの音楽になってしまい、ちっとも印象に残らないのです」

では具体的に、どうしたら良いのだろう―。

「大切なのは、『主役』を引き立てること。イントロはこの楽器を、歌が始まったら歌を、間奏はこの楽器を、といった具合に、前もってきちんと決めておくことが大切なのです。そのために、まずは2人ずつ演奏してみましょう。ボーカルとギターとか、キーボードとベースとか、いろんな組み合わせで。そうすると、2つのパートが似たようなフレーズを奏でていたり、2人の演奏がかみ合わなかったりしているところがよく分かるようになります。誰かがリードしても、メンバー全員で話し合ってもいいのですが、このセクションは誰が主役なのか、そしてどのように演奏するのか、ということを明確にしていくことで、音楽全体がすっきりと整理されていきますし、バンドとしてのまとまりが生まれてきます」

楽譜を書かずに、コード進行を書き込んだ歌詞カードをスマホで共有しているだけ、というバンドがかなり多いという。「譜面がないせいで、毎回ちょっとずつ違う演奏になっていたり、〝コード進行が実は間違っていた〟と後になって気づいたり、こんなことが実は結構ありがち。曲を譜面に書きおこしておくことで、その曲の構造をしっかり把握することができます。ただ、大ヒット曲をたくさん出しているプロでも、楽譜が書けない・読めないという人はいますから、それがすべてではありませんが」

そして、自分たちの音楽を客観的に見つめることも大切だという。

「演奏を録音して、見ず知らずのバンドが演奏していると思って聞いてみましょう。一番伝えたいメロディやメッセージというものが存在しているか、1回聞いただけで覚えてもらえるようなキャッチーなメロディーがあるか、人の心に爪痕を残すような歌詞があるか、ということを客観的に考えてみてください。おいしい料理を食べた時、あなたは『またこの料理を食べたい』と思うでしょう?それと同じことで、音楽も『もう一度聞きたい』と思ってもらえるかが最も重要。そのためには、客観的に自分たちを見つめることです」

強い印象を与えるには、同じ言葉やフレーズを繰り返すという手法がある。「2度、3度と繰り返すことで印象に残るようになります。ただ、4度も5度もやってしまうとしつこくて飽きてしまうので注意しましょう」

高校軽音楽の魅力について尋ねると、「商業主義では決して生まれない歌詞やメロディーがあること」と即答した。「いわゆる既存の商業音楽は、こんなコード進行ならウケる、こんな構成にしたら売れる、という定石みたいなものがあって、無意識のうちにそれに沿って曲を作ってしまうんですよ。ところが、高校生たちにはそんなことは関係ない。自分の感性だけで作っているからおもしろいし、一般的な音楽理論から逸脱していることもあるので、時々ハッとさせられることもあります」

最近は、楽器を使わず、キーボードなどに打ち込むDTMで作曲をする人も増えてきたが、割田さんは楽器を演奏することが大切だという。「DTMでは、他人と関わらずとも作曲や演奏ができてしまいますが、生のバンドでは、コミュニケーションをとりながら、みんなで音楽を作り上げていく必要があります。ベタな言い方になりますが、互いにぶつかり合うことで笑いと涙が生まれ、そこに成長物語があります。同じ時間を共有したという手応えも生まれます。

割田氏が指導に訪れた埼玉県立所沢高校フォーク部

何よりも、生の楽器を自分で演奏することは心を豊かにしてくれます。そして、高校軽音楽は『部活』ですから、毎日の生活をともにする仲間と一緒に、目標に向かって努力できるという最高の醍醐味があります」とも。

これから初めてオリジナル曲を作るという人は、まず何から始めたら良いだろうかー。

「何でもよいから、いろんな音楽を、聴いて聴いて聴きまくること。そして気になった楽曲があったら、その良いところを盗んでマネすること。その際、『この曲をどうして気持ち良いと感じたのか』を追求する。メロディやコード進行やリズムがこういう構造になっているんだということが分かれば、その通りに作ってみたらいい。自分にとって何が気持ち良いのか、それを分析する力がついてくれば、より感動的な、人の心に刺さる音楽を作ることができるようになるでしょう。まずは、徹底的にマネをしてください。本当のオリジナル曲を作るのは、その段階を経てからでも遅くありませんよ」と話してくれた。


割田康彦(Yasuhiko Warita)

音楽プロデューサー&作曲家。群馬県出身。日本大学藝術学部映画学科中退。1990年、作曲家「林哲司氏」に認められ作曲家としてデビュー。1994年、ユニット『東京Qチャンネル』として東芝EMIよりデビュー。活動範囲はポップスに留まらず、クラシック、ゲーム、アニメ、 映画、TV、CM、舞台、子供番組、お笑い系と多方面に及ぶ。平井堅、SMAP、光GENJI、1990’sアイドル、吉野家TV-CM、ドラマ「勇者ヨシヒコ」等への楽曲提供、乃木坂46、シソンヌ単独ライブ、「帰ってきたマイブラザー」(水谷豊/堤真一/寺脇康文ほか)、松竹創業130周年正月公演「おちか奮闘記」(丘みどり/三田村邦彦ほか)等の舞台音楽、「ときめきメモリアル30周年記念CD」音楽制作プロデュース、「ときめきメモリアルGS4」「遊戯王RD」等のゲーム劇伴音楽プロデュース、ピアニスト清塚信也のプロデュース&マネジメント(2006〜2016年)を手掛ける他、作曲家マネジメント、演奏家コーディネイト、クラシック公演プロデュース等を行う。2019年1月〜2025年6月の間、国内最大規模のコミュニティFMである『レインボータウンFM』にてインディーズ音楽家(DTMer/シンガーソングライター)紹介の特殊音楽番組『ミュージックテラス★WANTED!!!』を主宰しパーソナリティを担当。島村楽器主催コンテスト「録れコン」、江戸川大学「NEXTAGE ARTIST Audition」、東京都高等学校軽音楽コンテスト、淡路音楽島「うた自慢コンテスト」等の審査員、作曲講座やセミナー開催、高校「軽音部」対象の出張バンドクリニックなど後進の育成にも余念がない。作曲教則本として2018年に『一発で記憶に残る曲を作る! 9つのルール』、2020年に『キャッチーなメロディの極意48』を上梓。いずれもAmazonのカテゴリー別ランキングで「1位」を記録、ロングセーラーとなり「作曲バイブル」として支持を集めている。群馬県中之条町「ふるさとアドバイザー」。